Ninhursag Ninḫursaĝ

生きづらさの処方箋

自ずから然らしむ



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自ずから然らしむ Ninhursag Ninḫursaĝ


この地球に住まう命たちの体重を掻き集めたならば、その半分を微生物が占めているという。


この世に在ることごとくには微生物が かかづらっているわけで、なんならボクのこの體だって微生物が綯い交ざりあった集大成であり、皮膚も骨も内臓も脳も何もかも、彼らで捏ねたあげた肉団子みたいなものだ。


「自由意志だ、独立志向だ」ボクたちはそうやって勇ましく突っ張ってみせているけれど、無数の彼らがしつらえたこの箱庭世界で、したり顔に闊歩する世間知らずな坊ちゃんでしかない。


この手を振りまわし、脚を蹴りあげて鼻息荒く歌舞いたところで、結局は彼らが善立てをした掌の内で踊っているだけのこと。'ジブン'という悟性が出来したことでもなければ、いやむしろ意思ですらないのだろう。


だからボクたちのことごとくは
無分別であり
自然界であり
自己自他の界もない
地球體そのものに呑まれた片鱗


聞くままに又心なき身にしあれば
己なりけり軒の玉水


雨だれの音と自分との間に隔てなどない
野に立つ者は抗いようがない
ここは娑婆即寂光土
ボクたちはどうにだってされ得る被動態
自分ではどうにもならない表象なんだ


そうとなれば
無抵抗に割り切れそうな気がしてくる
もう既に起きてしまった過去や
これから起こるであろう未来も
そのことごとくは不毛なノイズ


もう過ぎてしまったことは
巻き戻すなんてできないし
まだ訪れてもいないことに
あれこれと案じてもしかたない


だからこそ 心配事や悩み事なんて
まったくの塵芥でしかないわけで
いっそ居直って
'いま'ってやつを全身で被り
まるごと受け容れてしまうなら
すべては順風の潮に乗っかるんだ
そんなふうにすら思えてきた


さて そうなると
これから何が起こるんだろうって
未来はどう拓かれていくんだろうって
他人事のようにワクソワが募ってくる


ボクたちは一見 個々人の体を成す
けれども じつは集合体
一体であるがゆえに調和する摂理


そんな肌感を知った途端に
パッと闇がひらける音がした
不思議と望んでいることが叶ったり
望まれていることに応えられたりする
気のせいだろうか_いや違う


この世は不思議なタマムシの翅
立場かわれば見方もかわる
けれどもすべてが同位相なんだ


そうやって
念いを深くねじ込んでいくと
願い叶うタイムラグみたいなのが
ますます短くなってゆくのを感じる


いまここで必要とされる振るまいが
勝手に湧いてきたり
ちょうどいいタイミングで
起きてほしいことが訪れたり


たまたま必要とするものが
イマの掌に入ってくるとか
イマの波に繋がって
ご縁の共和音が掬ばれる


蓋然的な過去が 必然的な未来へと
流動的なマグマが充全にバランスしてゆく
そうやって あらゆるものは
自ずからを然らしめて綯いまざり
調和へと収斂するんだ


例えば 植物は
芽を出し葉を広げ
花を咲かせて種子を結ぶ
水が溜まる処には 水生の植物が盛り
溜まらない処には陸生の植物が賑わう
やがて植生は世代を紡ぎ
自らを然らしむる果てには森となる
そこは常に調和の取れた揺らぎがあり
移ろいゆく命が謳歌する


その大っきな循環
この永劫普遍の法則
ボクたちだって もちろんの理


なのになぜだろう
人間衆生の界隈は その摂理を忘れ
憎しみ妬み嫉み卑下しあうんだ
そしてそれを ずっと止めようともしない


すべての動植物は調和のなかで生きる
けれど人間は ただ起きて
学校へ行って 会社へ行って
食って そして寝る
自然を破壊し尽くし
都合のよいときだけは
神さん仏さんなどと宣うのだ


ボクたちは地球を破壊する
そのため'だけ'に生まれて死んでいる
人間にしかできない何かがあるとしても
今やその役割すらも思い出せぬほど
ひどく退化してしまっていることだろう


もし この地球で
要らないものを挙げるなら
間違いなくボクたち人類である


この淀んだ肉団子は謙虚さを失った
そしてこれからも劣化コピーはつづく

Ω 𒀭𒎏𒄯𒊕 _